アスリートが体力と高い集中力を維持するために、腸内環境が重要だということはご存知だろうか。
特にマラソンや長距離を専門とするアスリートは、長時間・高強度の運動で あることから、身体的・精神的ストレスと相まって、消化器系の機能障害を惹き起こすことが少なくない。 近年では心身のコンディションと腸内細菌のかかわりが重要であることが指摘されている。
アスリートの腸内細菌叢は一般人と異なること、競技種目によっても腸内細菌叢の特徴が異なることが解明されつつあり、腸内細菌の特徴を利用したコンディション管理への活用が大 いに期待されている。
集中力や強靭なメンタルは『腸』からつくられる
心身にストレスを感じると、腹痛や下痢などの症状として現れることがあり、これらの相互のかかわりは「脳-腸 相関」や「腸-脳相関」と呼ばれている。
アスリートは ベストパフォーマンスを発揮し、勝利するために、いかに心身ともに強靭なものに鍛え上げていくかが鍵になる。
そこに大きく影響すると考えられるのが、腸内環境だ。
なぜなら、集中力維持や、プレッシャーに打ち勝つ精神を保つために大事な脳内ホルモン『セロトニン』は、腸内環境が悪いと分泌が減少することが知られているからだ。
セロトニンは精神を安定させ、平常心や安心感を保ち、頭脳の回転に関わるなど、脳の働きを活発にする脳内物質である。
さらに、そのセロトニンの分泌がメラロニンの分泌に直接影響し、“睡眠の質”に大きく関わることは周知の事実。トレーニングのリカバリーは睡眠の質で変わるということを体感しているアスリートの方々も多いと思われるが、腸内環境が悪いと睡眠効率が悪くなる。
そのセロトニンの分泌量は腸内環境によって左右されるため、アスリートが本番で高いパフォーマンスを出すためには、日常から腸内環境をコントロールすることは有効であると言えるだろう。
『消化吸収力』が勝てる肉体をつくる
「たくさん食べられる選手は強い」といわれることがある。
食事を多く摂取できることは、消化・吸収能力が優れており、エネルギー源となる栄養を豊富に体内へ取り込めることから、高強度の厳しいトレーニングにも対応できるというイメージで捉えられる。
しかし、例えば悪性菌が多く腸管に炎症がある場合はどうだろうか。
腸管に炎症がある場合、食べた食物の栄養素が十分吸収されないだけでなく、その未消化の食物が腸管から体内に侵入し、不要な免疫反応を起こしたりと、身体に負担をかけている可能性すらあるのだ。
例を上げると、傷ついた筋組織の回復にはタンパク質の他に亜鉛などのミネラルが必要だが、この亜鉛は腸内環境が悪いと吸収率が1/4まで減ってしまうという研究結果がある。
これでは、いくらトレーニングをしても、思ったようにパフォーマンスが上がらないということが起こりうる。
腸管の炎症はほとんどの人が自覚できないため、検査を受けて知ることをおすすめしたい。
アスリートにおいて、もちろん「どんな食事から」「どの栄養素を」「いくらの量」摂ることを考えることは重要なことだが、まずはその食事がしっかり消化吸収できているかを判定することが必要であると、わたしたちは考えている。
まず、アスリートが取り組むべき『4F』とは?
ここで、どんなアスリートにも共通していえる、腸内環境を乱す原因を取り除く『4F』というものをご紹介したい。
『4F』とは、
- グルテンフリー(小麦製品を摂らない)
- カゼインフリー(乳製品をとらない)
- シュガーフリー(精製砂糖をとらない)
- カフェインフリー
の略称で、これらは腸管に炎症を起こしたり、悪性菌の増殖を促進することが知られている。
これらの食品は腸内環境を乱すだけでなく、血糖値の乱高下(他記事参考)を引き起こす可能性の高い食品であるため、できるだけ控えることをおすすめしたい。
腸内環境を整えるためには、腸に良い食品やサプリメントを摂ること以上に、腸内環境を悪化させる食品と摂らないことが大切。いくら良い食品をとっていたとしても、効果が相殺されてしまうからだ。
便は腸内環境の鏡
毎日便の状態を観察することは、健康管理の一つと言える。
健康的な消化吸収機能が維持できていれば、便はバナナ状で黄土色、匂いはあまりない。
しかし、悪性菌が増えていたり、未消化である場合は緩くなったり、匂いが強くなったり、固くなったり、便の量や回数も増えたり減ったりするだろう。
腸の蠕動運動はセロトニンの分泌量と、自律神経に影響されるため、便の状態はまさに健康状態を反映しているのだ。
更に、客観的に腸内環境を評価するため、わたしたちの提供するZone medicalでは、便から腸内環境を調べるGI-MAP®を導入している。
GI-MAP®は、消化管内にいる微生物の遺伝子(DNA)を用いて腸内環境を調べる検査であり、腸内の環境を総合的に評価し、正確な数値データで表すことができる。
この検査をすることで、アスリートに有効な細菌叢がどのくらい生息しているかも知ることができ、より個体差に合わせた食事・サプリメント指導ができるようになった。
もし、パフォーマンスアップにお悩みのアスリートの方がいれば、腸内環境を改善することが、打開策となるかもしれないと期待が止まない。
アスリートの成績を伸ばすために、検査と評価を通して腸内環境のサポートをすることが、医師であるわたしの使命と感じている。
