最近、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)で不妊治療中の人からご相談がありました。
現在33歳。23歳の頃に多嚢胞性卵巣症候群と診断され、排卵障害があるので排卵誘発剤を使っているとのこと。
この記事では、多嚢胞性卵巣症候群の人が妊娠しやすい体質になるために改善したい食生活と、妊娠力を高める栄養素をご紹介します。
目次
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?
多嚢胞性卵巣症候群は、卵巣の内側に小さな卵胞が連なって詰まり、大きく育った卵子が卵巣から飛び出せないという排卵障害です。欧米では多毛などの男性化、肥満などを伴う場合が多いとされますが、日本の女性では無月経や不妊の頻度が高く、多毛や肥満は比較的少ないという特徴があります。 メディカルノート
多嚢胞性卵巣症候群とは、卵胞の発育不全です。
未熟な卵胞が卵巣内に溜まり、卵巣の表皮が硬く厚くなってしまいます。
月経異常、排卵障害、不妊が主な症状です。
遺伝的な要因(家族性)があることも多いようです。
多嚢胞性卵巣症候群の特徴
原因ははっきりと確立されていないこの病態。
多嚢胞性卵巣症候群の女性のホルモン分泌や身体的特徴は以下の通り。
- アンドロゲン(男性ホルモン)高値
- 黄体形成ホルモン(LH)高値
- エストロゲン過多・プロゲステロン低値
- インスリン抵抗性
- プロラクチン高値
- ビタミンD不足傾向
男性ホルモンが高値になる原因
多嚢胞性卵巣症候群の女性は、卵巣内の男性ホルモンが多いことが原因と考えられています。
男性ホルモンが上がる原因は脳から出ているLH(黄体化ホルモン)と、膵臓から出る血糖値を下げるインスリンというホルモンの作用です。
インスリン抵抗性とは、インスリンの効きが悪く、高血糖になりやすいほか、インスリンの過剰分泌が起こります。
高インスリン血症では卵巣での男性ホルモン(アンドロゲン)の生産を増加させます。
多嚢胞性卵巣症候群の女性は、インスリンの分泌が高値であるこが多いようです。
インスリンの分泌を下げると卵巣で男性ホルモンも抑えられ、卵巣内のホルモン環境が改善され、排卵しやすくなると考えられています。
このことから、糖尿病の薬であるメトフォルミン(グリコラン、メルビンなど)が排卵障害を改善するために使われています。
女性ホルモンのアンバランス
女性ホルモンのバランスで診るとエストロゲン過多、プロゲステロンが分泌低下している状態です。
エストロゲンは卵子を成熟させ、子宮内膜を厚くします
排卵がないと卵胞ホルモンであるエストロゲンばかり分泌され続けて、黄体ホルモンであるプロゲステロンが産生されないという状態が継続するため、月経不順や無月経、子宮内膜肥厚、月経過多が引き起こされます。
ビタミンD不足
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性はビタミンD濃度が低いということが研究結果で報告されています。
血中ビタミンD濃度の低下と不妊の関係は多くの論文が出ています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=vitamind+polycystic+ovarian+syndrom
排卵誘発剤で妊娠率は高くなるのか
多嚢胞性卵巣症候群の不妊治療では、
排卵誘発剤『クロミフェン』(クロミッド)
が、よく使われます。
しかし、排卵率が高くなる割に、 意外と妊娠率は高くならないと言われています。
なぜかというと、
- 子宮内膜が薄くなる
- 頚管粘液(排卵期のドロッとしたおりもの)が少なくなる
といった副作用があるためです。
排卵誘発剤を使うと、脳は卵胞を育てるためのFSHをどんどん出し、卵胞は大きくなります。
しかし、子宮内のエストロゲンの作用を阻害します。
エストロゲンは卵胞の成長とともに子宮内膜を厚くし、排卵前には頚管粘液を増やします。
排卵誘発剤はそのエストロゲンの作用を邪魔してしまうので、子宮内膜が十分に厚くならずに、卵子のベッドの質が落ちてしまうのです。
子宮内膜が薄くなってしまうと着床しにくくなりますし、 精子と卵子が出会う手伝いをしてくれる頚管粘液が減ると、受精しにくくなります。
すべての人が子宮内膜が薄くなる訳ではないようですが、排卵しているのになかなか妊娠しない人は子宮内膜の厚みを一度調べてもらうこともいいでしょう。
“おりものが増えた”人は排卵成功で身体が妊娠に備えている証拠。
“おりものが減った”人は、クロミフェンの副作用かもしれません。
終末糖化産物(AGE)の影響
多嚢胞性卵巣症候群の原因にインスリン抵抗性による影響があることは上記で説明しました。
インスリン抵抗性があり高血糖があると、終末糖化産物(AGE)の影響で卵子の糖化(老化)が進みます。
このことが卵子の質を下げてる可能性もあるのです。
排卵されても、卵子の質が悪ければ、受精が成功しません。
栄養療法的アプローチ
まず、ベースの身体を整えることが必要かと思います。
過剰なエストロゲンは代謝できているのか?
環境エストロゲンへの暴露対策をとっているのか?
糖質過多になり、インスリンが出すぎて男性ホルモンが上がっていないか?
パンやお菓子、トランス脂肪酸の影響で卵子が糖化・老化していないか?
子宮内膜の質を上げるには?
この辺りがポイントになると思います。
過剰なエストロゲンの除去
実はエストロゲン受容体に結合できるのはエストロゲンだけではありません。
エストラジオールと構造が似ている内分泌撹乱物質(重金属、ダイオキシン、有機汚染物質などの環境ホルモン)も受容体に結合し、エストロゲン同様の働きがあります。
自前ではない環境エストロゲンが体内で増えてるってことですね。
・環境ホルモンの排除
現代の女性は環境ホルモンの影響でエストロゲン過多になりやすい。
まず、エストロゲン過多になる外部的要因を取り除くこと。
加工品、ホルモン剤で汚染された肉、農薬たっぷりの野菜、水銀汚染レベルの高い魚を控えることです。
ペットボトルやプラスティックのタッパーも良くないですが、それらを生活から排除するなんて無理かなと思います。
完全に避けることはできなくても、なるべく無農薬野菜にするとか、大型魚は控えるとか、食材を選ぶことから始めましょう。
お野菜はこれで洗うのがオススメ。
・エストロゲンの代謝を促すこと
環境エストロゲンと体内の分泌が過剰のダブルでエストロゲン優位な状態なので、体内に増えたエストロゲンの代謝を促進させてあげなければなりません。
エストロゲンの代謝にはCOMT(コムト)という酵素が活性化することが重要です。
このCOMTを活性化させる補酵素の栄養素がB6、マグネシウムです。
グルタチオンのサプリメントや、アブラナ科の野菜を摂ることでもデトックスが促進します。
インスリン抵抗性の改善
糖質の摂り方には注意が必要です。
血糖値を爆上げする単純糖質の摂取は避けましょう。丼でご飯を食べたり、うどんやパスタ、パンなど糖質過多になる食事は控え、高血糖予防をすることが大事です。
糖質を摂る時は質にこだわること。低アミロース米や発芽玄米をお茶碗小盛りくらいが理想的。
お菓子や精製された砂糖、処理しきれない糖質は終末糖化産物を増やし卵子を老化させます。
運動もインスリン抵抗性の改善に効果的です。
ビタミンDの補充
ビタミンDが生殖機能や妊娠・出産に深く関わっていることを証明する研究報告は多くあります。
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性はビタミンD濃度が低い
- PCOSによる排卵障害の女性はビタミンD補充によって排卵率が上がる
- 卵胞液中のビタミンD濃度が高い女性ほど体外受精の妊娠率が高い
- 30歳以上ではビタミンD濃度が高い女性ほどAMHが高い
- ビタミンD濃度が高い女性は、子宮筋腫になりにくい
ビタミンDは細胞の分化に関わります。異常な子宮内膜の肥厚や筋腫など、多くの婦人科疾患にビタミンD不足が関わっているので、不妊治療中は充足した方が良さそう。
さらにビタミンDはインスリン抵抗性の改善作用があります。
食事からの摂取や日光に当たることでもビタミンDは合成されますが、サプリメントで補う方が効率が良いでしょう。
Doctor’s Best, ビタミンD3、5000 IU、ソフトジェル360粒
子宮内膜を育てる葉酸
葉酸は細胞分裂に重要な栄養素です。毎月剥がれ落ちる子宮内は細胞分裂も活発です。子宮内膜を厚くするためにも葉酸は欠かせません。
妊活中の葉酸の摂り方についてはこちら。
不妊治療は短期決戦
不妊に悩む人の多くは、年齢的な制限で『早く妊娠したい』と願う人が多いと思います。
しかし、卵子の質を上げること、卵子が着床しやすい子宮を手に入れるには
必要なものを摂る、邪魔するものを排除することが大事です。
不妊治療を医療の力だけに頼るだけではうまくいかないことが多いです。
ご自身の生活を見直し、身体を妊娠体質に変えることが、本当の不妊治療だと思います。
一つでも参考になれば幸いです。
参考*Vitamin D and assisted reproductive treatment outcome: a systematic review and meta-analysis
Justin Chu et.al. Human Reproduction, Vol.33, No.1 pp. 65-80, 2018
Ovarian endometriosis and vitamin D serum levels.
